エコカイロと幼き心の驚愕
デイリーポータルZ が好きで、だいたい毎日、更新分を追っている。
やる気の出ない夜はバックナンバーをあさってつらつら読む。
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ところで、幼いころに不思議な体験をした。
ある晩、親父から、土産としてあるブツを手渡された。
厚めのパックの中にどろっとした透明な液体が入っている。謎の金属片も入っている。
手のひらに収まるくらいの大きさ。恐竜の形だったような。
繰り返し使えるカイロだと言う。
「湯で温めればしばらく温かくて、しかも何回でも使える」と。
まあ確かに、湯で温めればしばらく温かい。しかし金属片が謎。
カイロを湯に漬けては、そう長持ちするわけでもない温かさを楽しんでいたが、
ある日、このブツを揉み揉みしていたら、急に液体が固まり始めた。
ビビった。液体が白く固まっていく様子を恐怖とともに眺めた。
そのあとどうしたかは忘れた。ヘタなことをしたことを隠すべく、捨てたような気がする。
なんでもない日常において、液体がいきなり固まり始めるというのは明らかに常識はずれなことで,
俺は何か世界の裏側を見てしまったのではないかと真剣に思い悩んだ。
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そうしてこれである:
エコカイロを爆竹で反応させる
https://backnumber.dailyportalz.jp/2010/04/22/a/
なんだってんだ、それが正しい使い方だったのかよ。
液体が固まるに従い温まった、という記憶はない。
むしろ、この記事を読むまで、凍ったのだと思っていた。
親父が正しい使い方を知っていれば、間違いなく披露していただろうから、
彼もよく知らないままどこかから貰ってきたものだったのだろう。
この記事を読んで、からくりを理解した瞬間に大笑いしてしまった。
【肉祭り】ネットで1万円ぶんの肉を買う
先日、誕生日だったので肉を1万円ぶん買うことにした。
ここで買った。インターネット肉屋:
買った品:
- 送料無料!ステーキお試しセット 4,060 円
- グラスフェッドビーフ サーロインステーキ 270g 1,260 円
- ラム スペアリブ 600g 2ラック入1,550 円
- テール カット 500g 1,840 円
- 豚バラ ブロック 1kg 1,080 円
- 計: 9,790円
来た:
さて、調理しよう。ここからは飯テロだ。
■ステーキ
ステーキを焼くときの絶対にして唯一の約束は、肉を常温にすることだろう。
解凍が済んでないまま焼くとかもってのほかである。
取説には「冷蔵庫に1日置けば解凍できる」と書いてあったけど、2日かかってキィィッ!!ってなった。
そして取り出しましたるは牛リブロース270g。
見てこの厚さ:
焼いた:
美味い。オレ ニク クッテル感が半端ない。
ステーキお試しセットについてきたシーズニングを振ったが、
がりがりしてあまり美味しくなかった。挽いて使うものだったのかも知れない。
おっと、まだ3枚もステーキ肉があるの。なに? 今週はお祭り?
あと1枚は撮り忘れた。ステーキっていいですよね。
■ラムスペアリブ
羊肉が好きだ。他のどの肉よりも好きかも知れない。
あの独特の匂いがたまらない。前世は遊牧民だったのかも知れない。
美しい:
魚焼きグリルでじっくり行こうじゃないか:
つついてたら破れたのでフライパンに移す:
フライパンでぜんぜん大丈夫だった:
シンプルに塩コショウだけだ。
右のサルサソースっぽいものはマズかったので後日適当にスープにした。
よい。さすがのニュージーランド産、実に羊臭い。
こんなに羊臭が強いラムは初めて食べた。それがよい。
翌日、なんとなく体臭が羊臭かった。
スペアリブの半分が残っている。今度は味を付けてみよう。
サルサソースは失敗したが、トマトとの組み合わせはよさそうだ。
トマトと玉ねぎとクミンを上手いことやって、こうだ:
これもよい。思ったとおりに合う。タバスコかけても美味かった。
■テールスープ
なんとなく、ずっと前からテールスープを作ってみたかった。
でも牛の尻尾はスーパーには売られていない。ついに夢が叶った。
シンプルにテールのみ:
3時間煮て、一晩寝かせて、3時間煮た。
この白濁感よ:
塩コショウだけでめっちゃ美味かった。
焼き肉屋で飲むテールスープの倍くらい濃い。
テールに残った身も、肉多めのすじ肉のようで美味い。
ただ、お椀4杯ぶんくらいしか残らなかったのでコスパは良くない
■豚の角煮
これはまあふつうの角煮。角煮丼って男の子だよね。
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2週間くらいかけて堪能した。肉1万円ぶんってのはいいですよ。
完全論破された思い出とその教訓
大学生の頃、友人Hの部屋で飲んでいた。
経緯は忘れたけど、
「卵はタンパク質が豊富な食材であると聞く。
タンパク質が多く含まれるのは、黄身か白身か」
という話になった。
私は、白身のはずだと主張した。
ボディビルダーの日常を紹介するテレビ番組で、
彼らが食べる食事のメニューが紹介されていた。
メニューの1つとして、5,6個分のゆで卵の白身が
含まれているのを思い出したからだ。
Hは、黄身のはずだと主張した。
タンパク質は生体を構成する主要な物質だ。
単なるクッション材に過ぎない白身に入っていても仕方ないだろう。
雛の元である黄身に含まれているはずだ。
Hの主張を聞いた瞬間に負けを認めた。
いま思うと、私の主張は間抜けに過ぎる。
この逸話は、以下の教訓をともなって今でも時折思い出す。
観察・直感から見出した"それっぽい"関係を重視してはいけない。
論理的・科学的な裏付けを求めよ。
【フェルミ推定】フェムトの微小領域から愛を叫ぶ
ふと、いま暮らしているこの部屋は、地球の可住領域に対してどの程度の体積を占めているのか気になった。
ざっくり計算できるだろう。やってみよう。
求めたい値は以下のXである:
分子は簡単だ。ざっくり、5m × 5m × 2m = 50m^3 = (5.0^-2 km)^3 くらい。
実測したわけではないが、cm程度のズレは地球の可住領域に対しては鼻くそみたいなものだからこれでいい。
地球の可住領域をどう計算しようか。
地球を球だと考えよう。おおよそ、地上から50mくらいまでが可住領域じゃね?
それより高いタワマンとかあるけど、まあ置いとこう。
球の体積を求める公式はこうだ:
地球の半径は6,400kmだから、それより50m大きい球の体積から差を取るとこうなる:
途方もない数字だ。
両方の数値を最初の式に入れると、
おおよそ、2.0×10^(-14)。20フェムト。
フェムト。俺たちはなんて小さな存在なのだろうか。
そんな微小な領域から、俺たちはネットに愛を叫び続ける。
僕の考えた最強の自炊メモ
僕の考えた最強の自炊メモ
- 米は研がなくても味変わらない。
- 安いキムチは想像を超えてマズい。白菜にキムチの素をまぶすよりマズい。牛角キムチは値と味のバランスが良い。
- ニンジンは必要な本数だけバラで買おう。すぐ溶ける。
- ブレンディは,冷たいカフェオレにするならいいが,それ以外だとクソマズい。ゴールドブレンドは高いがよい。
- オクラの板ずりって意味なくね? と思っていたが、茹でたオクラを細かく切らないで食べるときは、オクラの毛が不快。小口に切るなら気にならないのでやらなくてもいい。
- タマネギは長期間保つけど、新タマネギは保たない。すぐ溶ける。
- おろし金で固形のコンソメを削ってはいけない。おろし金の歯が負けてしまう。
- 肉ッ! ってものを食べたくなったとき、砂肝とかハツみたいな微妙に安い部位を狙うよりも、「鶏胸肉で唐揚げ、またはチキンカツ」「鶏モモ肉でチキンステーキ」「豚のひき肉でハンバーグ、またはメンチカツ」このどれかあたりの方が満足度高いぞ。
- タルタルソースのピクルスの代わりにらっきょを使うのはあり。
- 食費の節約で生活費を抑えるのは愚かである。
- 貧乏自炊は辛い。せいぜい「贅沢品は買わない」くらいに抑えて、食べたいものは食べる方がいい。食の楽しみのない生活に色はない。
- 1週間もやししか食ってないとか言うやつは自己陶酔している。そんな日々を送るくらいなら単発バイトでもした方が格段にマシ。
- 外食を否定してはならない。自炊に固執するのは視野狭量である。
- 食への関心を失うなかれ。自炊では到達できない美味いものがこの世にはたくさんある。
- 自炊は趣味ではなく家事。70点取れる料理をコンスタントに作成できることが目標。100点は稀でいい。
- もやしは買って2日目で土臭くなり、3日目から食えたものじゃなくなる。でも30円くらいだからどうでもいいよね。あと1週間すると溶ける。
- 旬は強い。夏野菜を冬に買うのは愚かである、冬野菜を夏に買うのは愚かである。でも買っちゃう。
- トマト缶詰は素晴らしい。挽き肉と玉ねぎを炒めてトマト缶詰とコンソメを入れて放置するとトマトソースができる。安くて美味い。
- 秋には梨を食おう。
- 鶏胸肉は安いがマズい。チキンカツは美味しい。
- 安いウィンナーはマズい。美味いウィンナーは高い。
- 鶏レバーは,鶏胸肉と同じくらいの値段で買えて,なおかつ栄養的にも良さそうである。しかし,遂に美味しく調理する術を習得できなかった。
- 値引きされた豚モツを買ってはならない。古くなった臓物はどう調理しても臭い。
- 魚の缶詰はサバの水煮がNo.1。最近売り切れが続いている。
- 値引きされた刺身を買うことに何ら卑しさを覚える必要はない。
- 昼に買って夜まで冷蔵庫に入れていた刺身と,夜に買った刺身に違いはないはずだ。
- お好み焼きは、肉・野菜・卵・小麦粉が揃った完全食である(広島出身)。
- 冬は白菜。適当に刻んで、だしのもとを入れた水とニンニク1片で30分くらい煮て,最後に少し塩を入れる。これだけですごい美味い。
- 米と味噌汁と納豆と卵と豆腐と牛乳を食べていれば健康だと思うが、満足感がなくて耐えられない。
- ブロックの豚肉を1時間くらい煮て,その煮汁でカレーを作るとすごい美味い。肉は具にしてもいいし,煮たあと醤油に漬けておけば簡易チャーシューになる。
- 袋ラーメンを否定する理由はない。安い・速い・美味い。
- 東海林さだお タコの丸かじり 台所の「捨てられない面々」
> 探し物をしていて、使い残りのハムの塊が、冷蔵庫の奥のほうから出てくることがある。これは確か、三週間ほど前に半分ほど使ってしまいこんだものだ。
> とりあえず、においをかいでみる。
> 少しにおうような気もするし、しないような気もする。火を通せば食べられるかもしれないが、なにしろ三週間も経っている。あぶないことはあぶない。
> このハムは、「ま、とりあえず」ということになって、再び冷蔵庫にしまいこまれる。そうしてこのハムは、さらに十日経って再発見される。もはや、食べることはできないであろう。
> この時点で、このハムは、ゴミの資格を十分備えたことになる。はっきりゴミになったのだ。しかし発見者は、はっきりゴミと認定していながら、まだこれを捨てたりはしない。
> 「もっと、ようく腐ってから」
> というヘンな理由のもとに、もう一度冷蔵庫にしまいこまれるのである。
> 腐っていることは十分承知しているのだが、ゴミとしては腐り方が足りない、資格がいまひとつ十分でない、ということらしいのである。
- わかる。水菜が葉先から腐っていくのを何日も見守ったりする。
- ナンプラーは、醤油や味噌の「豆っぽさ」を加えないでコクを増したいシチュエーションで有用。そんな場面あるかよと思うけど、たまにある。
- ちゃんぽんと皿うどんは、野菜も入れようという気持ちが自動的に沸くからいいよね。
- 広島風お好み焼きメモ
- 生地にサクラエビを混ぜると風味がよくなる。
- 生地はゆるゆるでいい。現フライパン2種の小さい方でソバを焼く、大きい方で本体を焼く。本体は、大きい方全体で作っても縮むので問題ない。
- ソバは若干焦げ目がつくくらいがよい。
- 本体にあげかすを忘れぬよう。
- 豚バラが接着剤になるので惜しみなく並べる。
- 弱火で10分蒸せ。
- かつおぶしをかけ過ぎない。
- ネギは必要
- デリバる場合は汁漏れに注意。
- 安いステーキ肉を焼く、焼いたあとに輪切りのトマトをソテーする、一緒に食う、うまい。
- かぼちゃと挽肉のポタージュは美味くて栄養があってよい。
- トマソを作ったときはスパゲティをあえてから冷凍しよう。ソースだけだとなかなか食わん。
- 東海林チャーシューはとろ火で作るとしっとりチャーシュー。
- そのチャーシューが余ったらネギと炒めて卵でとじるとよい。
- どん兵衛次郎はモヤシとキャベツを食えていい。
- ラム肉フライパンジンギスカン、よい。
- フォーっぽい汁はウェイパーとナンプラーとレモン汁で作れる。
- 豆腐チゲは貝の出汁が決め手。断然に違う。
- 肉うどんの肉を常備しよう。肉うどんにしてもいいし、卵でとじてどんぶりにしてもいい。
- 肉うどんとゆでた水菜はそこはかとなく合う。思ってるより薄まらない。
- マルタイラーメンで酸辣湯麺を作るのは素敵な行為。
- うどん、やまいも、てんかす、おんたま、あたたかいままで食べよう。
- ハンバーグをもっと上手に取り入れるべき。
- 雪印マスカルポーネ美味い。付属しているエスプレッソソースをかけるとこれで完成する。
- 千切りキャベツの胃もたれ防衛効果はすごい。
- 春菊サラダは素晴らしいが、1日置くとえも言えずマズい。常備菜にはならぬ…
- 白菜と豚バラのミルフィーユ鍋は巻く必要なんてなかった。
- ナポリタンのソースにカレー粉入れると美味いって見たから入れたら美味い。ウスターソースも入れたんだけど、なんか外食の匂いがして素敵。食べると妙なくらいに複雑な味わい。
電熱線コンロあるある
かつて借りていたアパートのコンロは電熱線だった。こういうの → リンク
あらゆる点でガスコンロに劣る。
電熱線コンロあるある:
- 弱い。とにかく火力が弱い。
- フライパン乗せて電源入れると,フライパンが温まるまでにタマネギ2個くらいみじん切りにできる。
- 鍋で湯を沸かそうとすると,電源入れてシャワー浴びて出てきたくらいでまだ沸いてない。
- 実家とかで久々にガスコンロを使うと、調理に要求されるテンポについていけない。
- めっちゃ電気食う。電熱線とレンジを同時に使うとブレーカーが落ちる。
- 火力発電 → 電気 → ジュール熱という不憫な使われ方をするエネルギーに哀れみを覚える。
- 暗闇に浮かぶ熱された赤い電熱線は美しかったりする。でもガスコンロの青い炎の方が綺麗。
- 電熱線コンロ1口で7年も自炊し通した私は相当なドMだと思う。
夜行バスを利用する際のガイドライン
(2012年当時に別サイトへアップした内容の転載。2018年現在、ちょっと事情は違うかも)
はじめに
大学生にもなると、どっか遠くに行くこともあるでしょう。旅行なり、学会発表なり。
遠くへ行くとき、移動手段として夜行バスが選択肢に挙がるかも知れません。
私は、実家が広島なので帰省の際に夜行バスをよく使います。
もう何度となく乗りました。「夜行バス・アマチュア」のレベルは脱していると思う。
自分用のメモを兼ねて、夜行バスを使うときの指針を提案したいと思います。
夜行バスを使おうと考えるとき、参考にしてもらえればうれしいです。
※ しかし、周りの人たちの話を聞くと、ここに書いてることはそれほど一般的ではないことがわかってきました。バスの会社や、特に路線によって状況は大きく異なるみたいです。私はまだアマチュアでした。
夜行バス2大原則
あなたは、夜行バスに対してどのような印象を持っているでしょうか?
やはり、「夜行バスは安いがキツい」という印象が一般的な気がします。
でも、どうだろう。
その「安いがキツい」というところに、何か魅力を感じませんか?
飛行機や新幹線なんかとは違う、洗練されてない感じ。ワイルドでタフな感じ。ちょっとした冒険の匂い。泥臭さ。
新幹線で九州まで行ってきました、と言う人よりは、
夜行バスで九州まで行ってきました、と言う人の方が、こなれてる感じがする。
ツアーで海外に行ってきました、と言う人よりは、
バックパックを背負って海外に行ってきました、と言う人の方が、かっこいいと感じるのと同じで。
私もそんなイメージを持っていました。
夜行バスにロマンを感じていました。(「海辺のカフカ」が好きだからかも知れない)
10回以上乗った今の私が言います。
そのイメージは幻想だった。夜行バスにロマンはない。夜行バスは、安くてキツい移動手段に過ぎない。(さくらさんとも出会えない)
夜行バスに関して、私は次の2つの原則を提案したいと考えています。
- 原則1 『移動した先で何かイベントがある場合、行きは夜行バスを使ってはならない(帰りは可)』
- 原則2 『夜行バスを使うときは3列シートの夜行バスを使う』
原則1: 『移動した先で何かイベントがある場合、行きは夜行バスを使ってはならない(帰りは可)』
夜行バスは疲れます。
座ったまま寝ないといけないというのは、なんかやっぱ不自然です。
帰省のために夜行バスを使うなら少しくらい疲れてもいいのです。
家に着いてから改めて横になって寝ればいいから。
しかし、移動した先で何かイベントがある場合は、夜行バスは避けた方がいいです。
『安さ(とロマン)に惹かれて夜行バスを選んだが、移動で疲れて、楽しめるものも楽しめなかった・やるべきことが上手く行かなかった』
というのは金をケチって損する典型例です。もっと慎重に、楽な交通手段を使うべきです。
移動した先で何かイベントがある場合、行きは夜行バスを使ってはならない。
(なので、やる事をぜんぶ済ましたら、帰りは夜行バスを使ってもいいだろう。)
原則2: 『夜行バスを使うときは3列シートの夜行バスを使う』
夜行バスには、3列シートのタイプのバスと4列シートのタイプのバスとがあります。
3列シートだと両隣の人との間にスペースがある。椅子、通路、椅子、通路、椅子という並び。
4列シートだと隣に人がいる。椅子椅子、通路、椅子椅子という並び。
4列シートのバスは、修学旅行なんかで使う団体バスを思い浮かべるといいです。まさにそんなバスです。
・・・まさにそんなバスなのです。
恐ろしく狭い。すぐ横に人がいる。ぜんぜんくつろげない。
座ったまま寝ないといけないという身体的な負担に加えて、
隣の人に気を払わないとならないという心理的な負担が加わります。
(でも、4列シートのバスに乗ったとき、一度だけ、隣に座った人と少し話したことがあって、
その人は「昔から夜行バス使ってるけど、最近はだいぶ改善されてきたよ。昔はひどかったものだ」とおっしゃっておりました。どんだけひどかったんだ。)
それに対して3列シートタイプは、まあ狭いのは狭いですが、
「隣の人のことを考えなくていい」という分、ずいぶん楽です。
また、3列シートタイプのバスはまず車内にトイレがあります。
4列シートタイプはあったりなかったりです。
またさらに、3列シートタイプのバスは、遮光なんかの車内環境も整ってます。
4列シートタイプのバスは、カーテンがすげえ薄かったりすることがあります。高速のトンネルまぶしすぎ。
要するに、3列シートタイプは、4列シートタイプよりも全体的にグレードが高い。
っていうか、4列シートタイプのグレードが低すぎる。耐えられない。
値段で考えると4列シートタイプのバスの方が安いのですが、いや、その差額で「楽さ」を買えると思えば安いもんです。
夜行バスを使うときは3列シートの夜行バスを使う。
ところで、夜行バスの運賃っていくらぐらいよ?
※最近は乗ってないので運賃は2012年当時のものです
きついきついと言いつつも、やはりその安さは尋常ではないです。
具体的にどれくらい安いのか、例として東京駅-広島駅間で交通手段ごとにかかる金額を挙げてみます。
(ぜんぶ片道です。また、特に断らない限り、忙しい時期じゃないときの平日の金額です。お盆とか正月とかはどこももうちょっと高いです。あと休日も少し高かったりする)
夜行バス
4列シート 約5,000円(オリオンバス)
3列シート 約8,000円(JRバス中国 ニューブリーズ号)
新幹線
約17,500円(のぞみ 普通車自由席)
飛行機
約33,000円(ANA 普通運賃)
(寝台列車は東京-広島間は今はもうないっぽい)
やはり夜行バスやばい。
とんでもねえよ。
帰省で往復したら、新幹線を使う場合より2万くらい安い。
で、乗車時間はどれくらいなのよ?
同じく、東京駅-広島駅の片道を例として挙げます。
夜行バス 11時間 (帰省ラッシュの頃だとそれなりに増加。私の経験した最長乗車時間は15時間。20:00東京発、翌11:00広島着)
新幹線 3時間
飛行機 1時間半
やはり夜行バスやばい。
とんでもねえよ。
帰省で往復したら、新幹線を使う場合より16時間くらい遅い。
しかし、これを「夜行バスに乗るだけの簡単なお仕事」だと思えば、
3列シートタイプで 20,000円 ÷ 8時間 = 時給1,250円
4列シートタイプで 25,000円 ÷ 8時間 = 時給1,500円ちょい
いいと思うか安いと思うかは人次第ということですが、…私は…やはり……いいと思ってしまうのである…。
この時給を知っては、帰省に夜行バスを使うことが、短期のバイトに思われてならないのだ……。
それでも夜行バスに乗るならば
やはり、金には抗えません。
いつか自由に新幹線を使える身分になれることを夢見て、
今は夜行バスに乗るときに気を付けるべきことを挙げて、じっと耐えましょう。
0. 乗れるかどうか確かめる
行きたいところに夜行バスが出ているかどうかは、次のウェブサイトあたりで検索してください。
3列タイプも4列タイプも含めて → 夜行バス比較なび
3列タイプのみで → 高速バスネット
(これら以外にも検索をかけられるとこはたくさんあります。私がとりあえずこの2つを使ってるので。)
1. 乗るまでにすること
まず第一に、席の予約する必要があります。
(昔はそうじゃなかったらしいが)昨今の夜行バスは予約しておかないと乗れない。
予約はネットからできます。上のウェブサイトも、検索してからそのまま予約ができるようになってます。だいたい1ヶ月前から予約ができます。
支払い方法は、カードとか振込とかコンビニのチケットマシーンとか色々と用意されています。
(少なくとも東京-広島間は)忙しい時期には思ってる以上に早く席が埋まってしまうこともあるので、早めに予約しておくのがいい。
2. 乗る際にすること
- 集合場所,集合時間は必ず確認しておく。 当たり前だけども。 しかし、私は、集合場所を間違えて1万円を失ったことがある。
- 持ってこいと指示されたものは持っていく。当たり前だけども。 「このメールを印刷して持って来い」とか指示されます。それは確実に持っていきましょう。必要ない場合の方が多くて油断してたら、危うく乗せてもらえなさそうになったことが私はあります。
- 荷物は多くしない。 大抵、荷台に入れてくれる荷物は一つまでです。残りは車内に持って入らないとならない。出発すると到着するまで荷台に入れた荷物は出せないので、車内に持って入るものは事前にまとめて別にしておく。
- 飲み物を多めに準備する。夏でも冬でも。車内で喉が渇くと辛い。バス乗る前に1Lペットボトルのお茶でも買っておくと安心。2Lは置く場所なくて邪魔。
- 音楽プレーヤーか耳栓は持っておく。いびきをかかれる方も結構いるので。わきまえてほしい。
- 最初の休憩で人が出払ったときに最大限の楽な環境を作ってしまう ベルトを外す・靴と靴下脱ぐ・フットレストとか準備する・飲み物をすぐ手の届くところに置くなど。 ジーパンとかきつい服は着ていかない方がいい。ほんと辛い。私は寝巻きに着替える。到着したらトイレで着替える。
- 眼鏡かけてる人はケース持っていくと楽。眼鏡置く場所がないので。
- (3列シートのバスなら遮光がきちんとなされているので気にしなくていいが) アイマスク持っておくと安心 4列シートだと、たまに、バス前方にカーテンがないバスがある。眩しい。 また、4列シートだと、たまに、車内のカーテンが遮光タイプじゃないバスがある。トンネルに入ると眩しい。
3. 乗ってからすること
乗ってしまえば、まあ後は目的地に着くまで運ばれていくだけです。ドナドナ。
(ちなみに、休憩は、トイレのついてないバスの場合、3時間に一回くらいある。
トイレのついてるバスはノンストップなことも多い。(運転手さんの交替で止まることはあるが、そのとき乗客はバスを降りてはいけない))
しかし、いかんせん車内は暇です。
カーテン閉まってるから、ぼんやりと外を眺めることもできません。
消灯までは(酔わないなら)本でも読めばいい。
しかし、消灯してしまってはどうしようもない。一応、読書灯が各シートについているけど、まあ使うのはマナー的にアウトです。
携帯ゲーム機を持ち込んでいる人もいる。最近はiPadを持ってる人も多い。
しかし、消灯してしまってはどうしようもない。消灯後に光の出る機器をいじるのはよろしくないです。
じっくり考え事をするというのも悪くない。
しかし、やはり消灯してしまうと、思いついたことのメモもできないから困る。ささっと携帯か何かにメモする手はあるけど。
他には、音楽を聴くのも良い暇つぶしになります。音漏れしなければ消灯後もOKなのがいい。
最近あんまり聞いてないというものを持っていって、ゆっくり聞きなおすのがいい。
ネットで無料公開されている古典作品の朗読なんかも悪くないです。YouTubeあたりに色々ある。
酒の持ち込みは禁止されていません。(禁止なバス会社もあるかも)
缶ビールと何かスナック菓子を持ち込んで飲んでるおっちゃんはよく見ます。それをまねてビールを持ち込んだらけっこうよかった。
ここのところはアルミ缶ボトル入りの日本酒を持ち込んで飲んでる。(フタできるから匂いは問題ないんじゃないかとは思っている)
以上。
それでは、よい夜行バスを。
小説: 嘘つきなあなた
# 起
私は残業を終え、自宅のマンションへと帰宅する。
いつもよりは早く仕事が終わったのかな、
私を迎えてくれたあなたの笑顔を見て、私はホッとする。
「先に帰れたんだ。簡単だけど夕飯は作ってある」
「ありがとう。先にシャワーを浴びたい」
「どうぞよかろう」
シャワーからあがると、すでにテーブルに夕飯が用意されていた。
あなたは椅子に座って私を待っている。
「ごめん、待たせた?」
「いや、いま来たとこ」
私は吹き出して椅子に付く。
# 承
「仕事、きつかった?」
パスタをフォークに巻きつつ、あなたは私に尋ねる。
「今日はたいへんだった。セクハラ課長のせいでね」
「あっはは、セクハラ受けてるんだ」
「あの課長はひどいよ、めっちゃ私生活まで食い込んでくる」
「いい体してるからじゃないの?」
「ひどい」
たしかに私は自分の体のプロポーションに自信がある。
「そっちは?」
「こっちのも部長がやなやつでさ、セミナーとかで習ってきたんだろうけど、
変なジェスチャーしながら『時間のー生産性がー大事でー』とか言ってた」
部長の言葉を無言で口パクしながら、
たしかに不気味な腕の動きの再現が披露される。
さすがに盛っているのは分かったけど、私は大笑いする。
それと同時に、無言で行われる一連の動作はなかなか精密で、
サイレント映画を実写で見ているようで感心もする。
ひとしきり笑って、「してやったり」というあなたの顔を見て言う。
「なんかストレスとかやな事とか、忘れさせられちゃったよ」
「このパントマイムでウケるなら、これを職にして、
どっか別の世界でも生きていけるかなー」
「行けるかもね。パントマイムもいいけど、
話も上手だからなんか別のパフォーマンスもいいかも」
「如果你這麼說我很高興!」
突然の異国語に私は驚く。
「なんて言ったの?」
「中国語で『そう言っていただけると嬉しいです』って言った」
「知らなかった、中国語できるんだ」
「いや、大学の語学で習ったフレーズを思い出しただけ」
「なんなんだよ……」
「中国行くなら上海かなー」
「上海? なんで上海?」
私は尋ねる。
「上海いいじゃん。なんかにぎやかでごみごみした感じとかさ。
楽しく暮らせるでしょ。パントマイムも見てもらえそうだし」
「中国語ができて、その要領の良さなら、詐欺師とかにもなれそうだけどね」
「詐欺師!」
私の冗談めいた言葉にあなたは食いつく。
「まじめな顔の人間が神妙に横に立ってれば、効果絶大だ。
世界一の詐欺師だって行けるって! ふたりで上海に行こう!」
そうして顔の横に両手をもってきてピースする。
たぶん上海ガニを表しているのだろう。私は突っ込まず、パスタを食べる。
「上海ガニってさ」
「うん?」
「あ、今日のパスタもカニ缶入れてるんだけどさ」
マジか、まるで気付かなかった。
「特殊な個体は30mまで大きくなるらしいよ」
「そうなの?」
「アルビノっているじゃん、ホワイトタイガーみたいなやつ。
あれみたいに一定の個体は漁船では採れない大きさまで育つんだって」
30m? この部屋よりずっと大きいぞ。
「うそでしょ?」
「うん、うそだし、今日のパスタにもカニは入ってない」
完全に騙されて、私は椅子にもたれて笑ってしまう。
もうずっとあなたと暮らしていて、そういうあなたの作り話に何度も笑わせられてきた。
あなたも、仕事はたいへんで苦しいはずなのに、
そうやって私を笑わせてくれることに、私はいつも、ありがとうって思ってる。
# 転
ある日、私は会社からナイトクルーズ券なるものを2枚もらった。
「余ったらしくてさ。君、よくやってくれてるからあげるよ」
チケットを手渡す課長はにやにや笑いながら言う。
「そのままいろいろヤッちゃってきなよ」
……これもセクハラというやつにあたるのだろうな。
しかし私は顔には出さずに、礼だけ言ってチケットを受け取る。
# 結
何日かの後、私たちはナイトクルーズツアーに参加していた。上弦の三日月が空に輝くいい夜だった。
豪華客船というほど大きくない、割とふつうの船だった。
客室が居抜いてあって、そこで食事やお酒が振舞われ、なにかのステージとかもあるらしい。
こういうのがあまり得意ではない私たちは、客室の隅の椅子に座って、クラッカーをぽりぽりかじっていた。
「外に出よっか」
「そうしよう」
私たちはにぎやかな客室をそっと抜けて、デッキに出る。
夜空に雲はなく、三日月が輝いていた。
船は、ごくゆるやかな速度で走行しているようだった。
私たちは並んで船のデッキから夜の海を眺める。
「ナイトクルーズなのに海からの夜景を眺めないなんて全員どうかしてる」
あなたが言う。でも私たちが立っているのは、
夜景側の反対のデッキだ。空と海と遠くの暗い陸地しか見えない。
「お花見とかも桜あんまり見ないじゃない」
「この状況を表すいい表現だと思う」
さわがしい客室の響きは、潮騒と船の駆動音に遮られ、ここまでは届かない。
ゆるく吹く潮風を浴びながら、私たちは、デッキの欄干に腕を乗せて夜空を眺める。
そのうち、私は自然とつぶやく。
「なんか、ぜんぶ疲れちゃったな」
「……そうだね」
「このまま、この船で逃げだせればいいのに」
あなたは黙ったまま手を伸ばして、私の頭を撫でてくれる。
私たちはけっこう身長差があるので少し撫でにくそうだ。
「こっちも疲れたよ。船、ジャックする?」
ハイジャックならぬ船ジャックか。ふふ、と私は微笑む。
疲れたと言うのに、いつものような笑みを向けてくれる。
私は微笑み、あなたの髪を撫でる。
どこでもいい。時間に追われるこの町以外なら。
あなたとなら、どこでだって笑って暮らせそうに思う。
いつもありがとうね、私を和ませてくれて。
私は言う。
「いくなら上海かな。世界一の詐欺師になろうよ」
あなたは答える。
「中国語、もっかい勉強しないといけないな」
*
そう言って、玲花は私の手を握る。
(おわり)
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雑記:
あんまり自分で言うの無粋だと思ってるけど、一応。
「わたし」が女で「あなた」が男に読めるようにしてて、
最後の最後で、「私」が男で「あなた」が女だとわかる、男女逆転トリックでした。
ですのでタイトルは「嘘つきなあなた」です。気付かれましたか、
そしてだまされてくださいましたか。
そういうトリックを使う必要は全くない内容なのですが、
こういうタイプの小説は書いたことなかったのでやってみました。
ただし、前回の小説と同様に、この小説にも元ネタがあります。
前回と同じく「東京エスムジカ」というグループの、
"Switched-On Journey"というアルバムに入っている、
"Shanghai Fakers"という曲です。
歌詞: https://www.kkbox.com/jp/ja/song/QHLjj0WXp8.1FcVP1FcVP0PL-index.html
(この歌詞自体は別に「私」と「あなた」が反転してたりはしないです)
この小説も、なるべく歌詞をなぞるような書き方をしています。
これもいい曲ですので、よかったらいつか聴いてみてください。
小説: 砂漠のカフェ
いろいろ小説投稿サイトを比較したけど、
どうも、「なろう」に引っ張られているのか、
純文学(謎)を募っているサイトが見つからないので、ここに晒す。
本当にコメントが欲しい。「クソダボがこんなの読まれへんわ」とかでいいんで感想が欲しい。
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タイトル: 砂漠のカフェ
本文:
広大な砂漠を旅してきた。
太陽が砂を焼き、月が砂を凍らせる。そんな過酷な砂漠だ。
今日も僕は砂漠を歩いていく。
快晴。風はない。コンディションも悪くない。
時刻は正午。頭上の太陽が強烈な日差しを砂漠へと降り注ぐ。
見渡しうる景色に存在する色は、空の青、砂の黄土のみ。
ゆっくりと呼吸をする。砂塵をまとった熱い空気が喉を通り過ぎる。
僕は、何度も越えてきた砂丘を、のぼり、そしてくだる。
変化のないこの砂漠の旅にも慣れてきた。
*
ふと僕は、いつもと違う何かに気付いて足を留める。
砂が熱される音だけが静かに立ち上るこの土地で、かすかにだが、異質な音が聞こえる。
人工的な音色、これは、ギターの音か?
音が鳴る方へ視線を向け、目を疑う。2,3kmほど離れた眼下に、オアシスが広がっていた。
僕の知る限り、このあたりには砂漠以外に何もないし、
砂丘にのぼったときには一面の砂礫しか確認できなかった。
幻影か、あるいは奇跡か。しかし、なんど見ても、蜃気楼のようなものではなく、オアシスは確かに存在していた。
オアシスの周辺をよく観察する。各方面からオアシスへ轍や足跡が続いていることに気付く。
砂丘から眺めたときにそんな跡が残っていただろうか? いや、確かに無かったはずだ。
しかし、いま目に見えるものを信じるしかない。
オアシスは、青々とした低木林に囲まれ、楕円形の水場の周りには下草の緑が見える。
僕はしばらく、久々に見る緑と水辺に見とれていたが、緑の中に1件の住屋があることに気付く。
屋根も壁も茶色の小さな建物だ。ギターの音色の元はきっとあの建物だ。
オアシスの方面から風が吹いてくる。砂漠の熱風とは異なる、水気をはらんだ風だ。
僕は、オアシスに向かい、そしてあの建物に立ち寄ることを決め、歩き始めた。
*
オアシスからの風を受けつつ、これまでの旅には無かった出来事に、考えを巡らしていた。
僕が砂漠を歩きだした理由や、それからの過程も、自然と思い出される。
オアシスに近づいていくにつれ、砂漠とは異なる空気の存在が増していく。涼しく、草木の匂いに満ちた空気だ。
低木林の樹種はオリーブではないかと思われた。オアシスの6割ほどを占めている。樹高は2m程度、僕の身長より少し高い。
オリーブの林に入り、歩み続ける。下草の名前までは分からないが、多様な雑草が豊富に生育していた。
左手に見える水辺は日光を反射し、きらきらと輝いている。鳥の鳴く声も聞こえる。
それらの風景を見ながら、僕は、僕の記憶を思い返しながら歩を進めた。
*
やがて、例の建物が見えてきた。
建てられてからの正確な年数は推定できないが、長らく、このオアシスと共にあったと思われる。
建物の周りは下草が払われ、現在も管理が続いていることが分かる。
僕から見える方向の壁に窓は無い。ここからでは室内の様子を伺えそうに無かった。
やはり、ギターはこの建物から響いているようで、オアシスを包むように、周囲の空気を震わせている。
オアシスの雰囲気に合ったのんびりとしたギターの音色に油断していたが、
僕は、砂漠の旅で得た教訓から、未知に対する恐怖を思い出す。
室内の人間からこちらを察知されないよう、オリーブ林に紛れて建物の観察を続ける。
建物の前には、何らかの板状の金属物がある。こちらを向いていないので表面は見えない。
入口の扉の脇には、小さなオリーブが植わった植木鉢が置かれている。
その植木鉢の右手には、錆びついてはいるが、けれど頑丈そうなベンチが据えられていた。
僕はしばらく観察を続けていたが、それ以上わかりそうなことは無かった。
そのとき、ギターの曲が変わり、それに合わせたエスニックな女性の歌声が聴こえてきた。
ギターの演奏者が歌い始めたのか、それとも、演者とは別の女性が居るのかは分からない。
僕は、オリーブの林に立ったまま、ギターの音色と歌声を聴いていた。
*
ふと我に返る。警戒を怠ったことを後悔する。
しかし、この音楽を聴く限り、この建物は、おそらく、悪質なものではない。
なにより、歌っている彼女と会ってみたくなった。僕は建物に入ることを決意し、オリーブ林を出る。
建物の前に置いていた金属物は看板だった。
そこにはこう書かれていた。
ようこそ旅人よ ここは太陽の真下 世界の果てのカフェ
この建物は……、カフェらしい。
想定していなかったことに僕の思考は少し停止する。
まあオアシスのほとりにカフェがあっても……、おかしくはないか?
いいだろう、入ってみよう。僕に危害を与えるものはないはずだ。
*
扉を開くと、ドアベルの音が店内に響いた。室内は薄暗い。
カウンターの奥で椅子に座っていた店主が演奏を止め、顔を上げる。
「ああ、いらっしゃい」
彼女は椅子から立ち上がり、持っていたギターをスタンドに立てかける。
カウンターは低く、そのギターの姿が見える。アンティークと呼べるほど古いものだと分かった。
店主の他に人間は居ない。そうなれば、あのギターも歌声も、彼女のものだったのか。
「ごめんなさいね、今日はお客さんが来ないから歌ってたの」
「いえ、構いませんよ」
無愛想かなと思って僕はもう一言つけくわえる。
「ギターと歌、素敵でした」
「ふふ、ありがと」
店主は微笑み、続ける。
「明かりをつけることもできるけど、このまま薄暗いほうがいいかしら」
「このままの方がいいですね」
砂漠の強い日差しに疲れた目には、これくらいの薄暗さが優しい。
「どうぞ、お座りください」
僕はザックを下ろし、案内されたカウンターの席に座る。
「すぐに出せる軽食ならパンとオリーブがあります。食後はコーヒーでいいかしら」
「はい、構いません」
どれも、久しく飲食していないものだ。
店主が準備を行っているあいだ、僕はカフェの室内を眺める。さほどの広さは無い。
時の流れを感じさせる古風な内装だった。しかし、埃っぽさなど微塵も感じさせない。
つややかなカウンターの端にはいくつかの果物が籠に入っている。このオアシスで採れたものだろうか。
入口に向かって右手の壁には窓はなく、いくつかの絵画が飾ってある。
薄暗い室内に適度な明るさを与える光は、左手の壁に面する、
薄く白いカーテンのかかった窓から入ってきているようだ。
天井では緩やかにファンが回転している。
ほどなく、パンとオリーブが乗った皿とコップに入った水がカウンターに載せられた。
僕は水を飲み、ほっと一息つく。
皿の方に手をつけながら、カウンター内の椅子に座った店主と話す。
「ここには、私のような旅人が訪れるのですか?」
「そうですよ。すべてのお客さんが旅人です。
たぶん、あなたが想像している以上のお客さんがこれまでに来店されていますよ。
今日はあなた1人ですけど、たくさんの旅人が集まる日もあります」
僕は頷いて、パンをかじる。こんな場所に?
しかし、カフェに留まる"残り香"のようなものから、
かつてこのカフェを訪れた旅人が数多くいることが何となく察せられる。
僕は話題を変える。
「ギターはアンティークですか? ずいぶん年代物のようだけど」
「そう、ずっと前にお客さんが置いていったものなの」
ずっと前に。どれくらい前で、店主はいつからこのカフェにいるのだろう。
そう思ったけど、女性の年齢を推察するのはよくないことだ。
「よかったら、もう一曲弾いてもらえませんか?」
「もちろん」
店主の弾くギターを聞きながら僕はゆっくりとパンをかじった。
僕が食事を終えるまぎわに店主は演奏を止め、カウンターの奥の部屋へと入っていった。
やがて、コーヒーの匂いがカフェを満たしていく。
カップに入ったコーヒーをトレイに載せて店主が出てくる。
「ミルクと砂糖はどうしよう?」
「そのままで構いません」
この香りのコーヒーならブラックの方がよく質が分かるだろう。
カウンターから見て左手の窓の下には1人掛けのソファーと小さなテーブルが設置されていた。
窓の向こうにはオアシスが見える。僕は、あの席から景色を眺めたいと思っていた。
「ところで、あっちの席に移動してもいいですか?」
そう言いながら、僕は顔を左に向ける。
「ええ、どうぞ」
僕はトレイを受け取りその席へと移動する。
ソファーに座る。やわらかい布地でとても座り心地がいい。
コーヒーを一口すする。苦みと酸味がほどよい上品な味わいだった。
窓の向こうでは、オリーブの葉が日差しを反射し、その深い緑を輝かせていた。
オリーブの隙間から垣間見える水辺も、波うつ水面の白い光をきらめかせていた。
オリーブ以外の樹木があることにも気付く。その木はオリーブよりも高く、赤い実をつけている。
ときおり、このオアシスに集まる鳥が空を飛び交っていく。
僕は、ソファーに腰掛け、そういう風景をぼんやりと眺める。
過酷な砂漠の旅を歩いてきたこの身には、この風景は、何よりの癒しだった。
僕は、旅の疲れが抜けていくのを感じる。
このソファーは、体が沈み込むほどに柔らかだ。
僕は腕を組み、深々とソファーに身を沈める。
腕から、自らの鼓動が伝わってくる。鼓動のリズムは、僕という生命を想起させる。
これまで生きてきたこと、この先も生きていくこと。僕はどこから来て、どこへ向かうのか。
ソファーの中で深くリラックスし、そういうとりとめのないことを考える。
*
どれくらい時間が経っただろう。ふと僕は我に返り、上体を起こす。
ほう、と息をつくと、人の近づく気配を感じた。
「どうです? コーヒーのおかわり」
店主が僕に尋ねる。机の上のカップに目を落とす。すでに空だ。
「……ええ、お願いします」
コーヒーカップを返却すると、まもなく、温かいコーヒーが運ばれてきた。
2杯目のコーヒーを飲みながら、僕は再び窓から外を眺める。
人生は苦痛に満ちている。だけど、世界は美しい。
それは確かなことだ。そんな当たり前のことを、砂漠を歩く中で忘れてしまっていた。
僕は、今この目に映るすべてのものを愛しいと感じた。
*
コーヒーを飲み終わり、僕は砂漠に戻ることを決める。
「ごちそうさまでした。お代はいくらですか?」
「いいえ、お代は必要ありません」
理解しがたく、僕は店主の顔を見つめる。
しかし、店主は、黙ったまま静かに微笑んでいる。
僕は店主の厚意を素直に受け入れる。
「わかりました。本当にありがとうございます」
「いいんです、そういうことになっているんです」
僕は荷物をまとめる。そうしてカフェを見渡す。いい場所だった。
ザックをかつぎ出口へと向かうと、店主がカウンターから出てきた。
「ありがとうございました。久々に休息できた気がします」
店主に、本心からの言葉を伝える。
「それはうれしい。旅人さんたちはみんなそう言ってくれます
忘れないでくだいさいね、このカフェのこと」
店主が微笑む。
その笑顔を見た瞬間、僕は、いつになるか分からないが、
必ず再びこの場所を訪れることを、なぜか確信した。
「忘れません。時折、思い出します。きっと、また来ます」
*
店を出ると、店先のベンチが目に入った。
ここで、このカフェを訪れた旅人たちはコーヒーを飲み、
パンをかじりながら、談笑し、あるいは僕と同じようにオアシスを眺めてきたのだろう。
僕はベンチから目を戻し、ふたたびオリーブの林を抜けていく。
太陽はだいぶ傾いていた。時刻を確認すると、思っていた以上に、あのカフェで過ごした時間は長かったみたいだ。
予定外のことで旅程は少し乱れてしまったが、素敵な午後であったことは間違いなかった。
砂漠に近づくにつれ、気温が上がり、湿度は下がり、植物の匂いも減っていく。
当面の目標の砂丘の上に立つ。振り返ると、あのオアシスとカフェは忽然と姿を消していた。
たぶんそれでいいんだ。それでもきっと、またあの場所に辿り着くことができる。
僕は、砂漠の強い日差しに目を慣らすためにしばらく砂丘にたたずむ。
次に向かうべき方角を頭の中で反芻し、目を開き、歩き始める。
僕の人生はこうして続いていく。
(おわり)
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「ダボ言うて悪かったな」って思ってもらえると嬉しいのですが、
この小説、ある意味、二次創作です。
「東京エスムジカ」というグループの"未完成旅行記"というアルバムに入っている、
"砂漠のカフェで会いましょう"という音楽が元ネタです。まんま。
歌詞: http://j-lyric.net/artist/a00c999/l019ae1.html
なるたけ歌詞をなぞる/引用するという方針でこの小説は書かれています。
お暇があれば、どこがどう掛かってるのか探してみてください。
また、原曲もいい曲ですので、機会があれば聞いてみてください。
(とはいえ、原曲は、この小説ほどしっとりした感じじゃなくて、
結構にぎやかな感じです。たぶん、作詞の意図も私の解釈とは異なる)
ユニクロのウルトラライトダウンのダイレクトマーケティング
私は新潟に住んでいる。
しかし、生粋の新潟民ではない。出身は広島である。
何の縁か、今の会社に就職して、新潟に移ってきたのだ。
ただし、絶妙なタイミングで東京異動なんかもあって、
新潟の冬を経験するのはこの年が初めてである。
市内はそんなに雪は積もらないと聞くが、そうは言っても恐ろしいものは恐ろしい。
うちの会社はテレワークの制度が制定されつつある。
なんでかわかるか? 子育て中の社員のためということもあるが、
雪に閉ざされて会社に来れないとか、朝に雪かきしてから会社に出てくるためとか、
そんな理由なのだ。いや、わかる。切実だ。切実なのは分かるが、そんな理由なのか。
もっとこうさあ、IT企業なんだから、家でも会社でも場所はどこでも……まあいい。
冬も近づき、曇天の日が始まってきたこの北陸(諸説ある)の地で、
はい、唐突にダイレクトマーケティング、ユニクロのウルトラライトダウン。
これは最高だ。Tシャツを着て、スウェットを着て、このダウンを羽織れば、
寒くなってきたこの時期でも室内の活動は快適に行える。
温かい。俺を暖めてくれるのはこのダウンだけだ。
ただしこのダウン、大学時代に買ったもののため、徐々に羽毛が抜けていき、
なんかもうぺらぺらになっている。お前もっとふっくらしてたよな。
暖かいものは暖かいからいいんだけどさ、俺ちょっと悲しいよ。
『俺のダウンはぺらっぺら』
ハンターの念能力名っぽいな。完全に『俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)』をなぞっているだけだが。『俺のダウンはぺらっぺら(虚飾ゆえの羽衣の愛)』とかどうだろう。
ともかくおすすめします。着なさい。ユニクロのウルトラライトダウンを着なさい。着るのです。
これはステマではない、ダイマである。来週の中頃から最高気温が14度まで下がる新潟でも、
これと、なんか高校の部室で適当に拾った下に履くウインドブレーカーみたいなやつがあれば、
まだエアコンなしでも問題なく快適に過ごせるはずだ。あと靴下な。腹巻も近々買う。
あと、さすがにぺらっぺらすぎるのでダウンは今年は新しいやつを買い直そうと思う。