3. 私とラム肉 - 推し肉の部位について力の限り語りつくしたい -
はじめに
もろもろあって、北海道での農作業ののち、ニュージーランドにワーキングホリデーで渡航しました。2019年の10月から2020年2月まで。渡航前までは農作業をする予定だったのですが、なんのかんので、主にラム肉と牛肉を生産する AFFCO(アフコ)という精肉加工会社のWairoa工場で働くことになりました。
ここです:
「工場内の写真を撮んなよ。ましてやSNSにあげたりするなよ」と契約時に忠告されましたが、まあ休憩室での自撮りくらいならいいだろ。
精肉加工工場で働くと、どうしたって肉の部位について詳しくなる。
ここでは、
- 私の経験と料理の写真
- AFFCOの商品カタログのページ
- MLA(MEAL & LIVESTOCK AUSRRALIA)の日本法人 が公開している情報
www.megahouse.co.jp
以上を用いつつ、ラムを推す者として、ラムが日本に出回る一助となるべく、ラムの部位について私の知る限りのことを書いていきたい。
悲しい前置き: ニュージーランドにおける生活自体の思い出は、基本的に、僕にとっては苦痛の方が大きい。未だにあまり思い出したくない。だから、日常的な生活のこととか、ニュージーランドの文化・風習・観光地なんかの話はこの後いっさい出て来ない(もしも気になるのであれば、私のFacebookの投稿をたどってほしい。いくらかは書いている)。だからラムのことだけ書く。当時、偏愛的と言えるほどラムについて調べたのも、いま思えば、現実逃避の意味合いが強かったのかも知れない。
というか「一頭買い!!ジンギスカンパズル」ってなんだよ
いや、俺もよく分からん。メガハウス社 は狂っているのか? たぶん 狂っている のだろう(褒め言葉)。
その他の情報リソースに関する前置き(読み飛ばし可)
読み飛ばし可ですので小さめの文字にしておきます。
肉の部位って、名称とかどこを切り取ったかとか、けっこうまちまちで、全世界統一版みたいな確定的な定義がありません。この記事では、まずは、AFFCOの商品カタログのページ を基本ソースとし、補助ソースとして、「オーストラリア産食肉ハンドブック第7版」を用います。
AFFCOの商品カタログのページ、見づらいなあ……。とりあえず、左柱のLambを選ぶとラム肉製品の一覧を見ることができます。個々の商品へのリンクは設定されていないか……。勝手にスクショ撮ってここに貼るのもご法度でしょうから、どういう見た目なのか気になる場合はお手数ですが、都度、商品カタログからご確認ください。
それから、副教材として使うハンドブック、この原本を出版している組織は、AUS-MEAT という、オーストラリアの精肉加工の認証機関のようです。AFFCOのサイトにも「AUS-MEATの査定を受けてる」と書いてあります。たとえば、Wairoa工場のページ には次のように書いてある。
AFFCO Wairoa is approved for all major markets including EU, US, Middle East, China and Malaysia and is fully Halal, AUS-MEAT and BRC certified.
訳) AFFCOワイロアは、EU、米国、中東、中国、マレーシアを含むすべての主要市場で承認されており、完全にハラール、AUS-MEAT、BRCの認証を受けています。
ですので、「オーストラリア産食肉ハンドブック第7版」も参照してよいものとします。
ハンドブックの左側の目次から、羊肉 > カットスペック索引 を選ぶと、ラム肉の製品定義の一覧を見ることができます。製品定義とは、 製品の正式名称・その製品はどのようにカットして得られるか・製品の写真・その製品は枝肉のどの部分にあたるか、などを指します。
ところで、このハンドブックの日本語版を公開している組織は、aussie beef の日本法人です。"aussie beef"とは、なんとなく聞いたことある あの「オージービーフ」です。オージービーフ日本法人の業界向けサイト のコンテンツの1つとして公開されているのです。
それで、これがまたよく分かんないんですけど、上のサイトでMLA(MEAT & LIVESTOCK AUSTRALIA)という名称が使われていますが、これが具体的に何を指しているのかもサイト見てもよくわからない。ともあれ、現況、MLAのサイトの右下あたりにあるバナーから「オーストラリア産食肉ハンドブック第7版」にアクセスできます。
それから、MLAが協賛している ラムバサダー というプロジェクトがあります。ラム肉の情報やレシピが日本語でまとめられていてサイトを見てても面白いですし、レシピブックとして公開しているpdfファイルも楽しいです。レシピブックは このページ の下の方にあります。このレシピブックも、適宜、参照します。
まずざっくりと切り分けていこう
羊さんは屠殺場で電気ショックされて意識を失ったのち、後ろ足を吊り下げられた状態でレーンを流れていく。屠殺場の広大なレーンでは、1人1役って感じで仕事人が待ち受けていて、首を切ったり、皮を剥いだり、内臓を取り除いたりしていく。そうして、羊さんはレーンを巡っていくあいだに肉と骨だけになった姿になる。これを枝肉(carcase)と呼びます。枝肉で画像検索したらイメージが分かると思います(ややグロ注意)。
そして、枝肉は(もしかするとちょっと冷蔵・熟成されてから? これは工場で働いていても分からなかった)、レーンにぶら下がったまま、カット場へと運ばれていく。
枝肉は、(AFFCO基準では)大きく3つの部位に分割されます:
- ショルダー(shoulder): 肩のあたり ... 首から5本目のアバラまで
- ミドル(middles)*1: あばらとか腰とかのあたり ... 5本目のアバラから股の骨まで
- レッグ(leg): 後脚 ... 股の骨より後ろ
それぞれの部位はさらに小分けにカットされ、一部の製品は骨を取り除かれる。カットのされ方・骨を切除するか否かは、製品の定義に依る。
もちろん、枝肉以外の部位も捨てられるわけではない。それでは、個々に見ていきましょう。
ブレイン(脳: brain)
初っ端で脳。さすがにラムの脳を食う機会はなかった。見る機会もなかった。ただ、AFFCOでも廃棄しているわけではなくて、一緒に働いていた同僚から聞いたところ、「これはドッグフードになったりするのよ」ということらしい。
ラムタン(舌: tongue)
タンについては前回に書いた。なぜか、東京に住んでいたときの最寄りのスーパーにときおり売られていたのだ。タンにも部位はあるし、切り方・厚さに依ると思うけど、食感としては牛タンよりも豚タンに似ていた。それでいて味はラムっぽくて面白い食材だった。
シビレ(胸腺: sweetbread)
これは現地で食べた。AFFCOには直売所があり、そこらのスーパーよりも安く(ただし、小分けとかされてない塊の)肉を手に入れることができた。シビレはややレアな品らしく、「いまシビレあるよ!」と告知されたチラシが出る感じだった。
残念ながら写真を残していない。見た目は、ひだのない白子みたいな感じで、味も、ちょっと肉っぽい白子に近かった。バターでソテーして食べたが、まあ1回食べたらもういいかなという感じだった。
フワ(肺: lungs)・ハツ(心臓: heart)・ハラミ(横隔膜)・レバー(肝臓: liver)・チョウ(腸)
このあたりは一気に飛ばしていきます。というのも、どうもニュージーランドではラムの内臓を食べる文化が薄いらしく、けっこう探してみたけど店でも一切見なかったからです。直売店でも(シビレ以外は)内臓は売られていなかった。そのため、これらは現地でも食べる機会がなかった。横隔膜と腸に至ってはハンドブックの中に項目すらない。
トリッパ(胃: tripe)
羊も胃が4つあるタイプの動物です。このうち、第1と第2の胃のことを指してトリッパ(あるいはトライプ)と呼ぶみたいです。前述の通り、ニュージーランドではあんまり見聞きしない単語だった。ググると分かるが、むしろイタリア料理とかで珍味として使われている部位のようです。
キドニー(腎臓: kidney)
これも結局は食べてないんすけどね。「キドニーパイ」っていうと、イギリスで食べられるマズい伝統食らしい。
内臓の話はここまで!
申し訳ありませんでした。途中で書いたけど、ニュージーランドでは内臓を食べる文化があまりないみたいで、タンとシビレくらいしか食べたことがなく、大して書けることがありませんでした。
ここからは、内臓に対して、肉々した肉のことを書いていく。文章量も上げていく。
スペアリブ(spare ribs)
大きく分けると、ミドルの一部、あばら骨周辺の部位です。日常的によく聞くスペアリブと同じだと思って問題ないです。豚のスペアリブとか焼いても煮ても美味しいですよね。つまり、スペアリブの骨ってあばら骨なんすよ。ちょっとこう、両手で自分の乳の下あたりを押さえてみてください。だいたいそのあたりの骨付き肉がスペアリブです。
前回にも載せた写真ですが、日本に居たときに買ったラムのスペアリブの写真を再掲載します。
右の写真の切り分けられた状態の形状は「あー!スペアリブだわ!」と思ってもらえるんじゃないでしょうか。ハンドブックに依ると、この部位は"スペアリブ"という名称で全く問題なさそうです。
ネック(首: neck)
大きく分けると、ショルダーの一部、首の肉です。これもあんまりニュージーランド内では流通しているものではないのですが、偶然 手に入れる機会があったので食べることができました。
首って、鶏だとせせりだし、豚だと豚トロの一部だしで、他の部位とはちょっと違う食感を期待していたのですが、「なんかちょっと固めかな」くらいで他のラム肉とあんまり変わらない印象でした。
かたロースとかた(shoulder)
さあて、「かたロース」と「かた」が追加されました。このあたりから複雑になってくるぞ!
まず最初に述べねばならぬことは、ロースという分類は日本でしか用いられない名称である ということです。日本における「ロース」は背肉を指します。背肉とは、背骨より上(上というか、背側というか)の肉です。ちょっと背中をさわってみてください。触れた筋肉はロースです。肩から尻あたりまでの背肉はぜんぶロースです。ただし、背肉も場所場所で硬さとかサシの入り具合が変わってくるので、ロースにも区分があるという感じです。
じゃあ肩ロースは英語でなんというのよ、ということになるので、ハンドブックを確認すると、アイ オブ ショルダー(eye of shoulder)がそれらしい感じです。
ちなみに、食肉については"eye"は、目ではなく、「細長い部位の肉の一部」と思ってOKだと思います。動物の長い筋肉って平たい楕円みたいなイメージじゃないですか。それをカットした断面が目の形っぽいから、そう呼んでいる。僕はそう理解しています
ソースを出そうと思って主要な英語辞書のいくつかで"eye"と調べたけど、肉に関する用語としてのeyeが見つからなかった。
なので、野良ソースで申し訳ないが、これ とか:
When the term “Eye” is used to refer to a cut of meat or in the name of a cut of meat, it does not mean the ocular eyes with which we see.
It does not always even refer to a more tender cut of meat. It purely refers to the oval shape of that portion of the cut.The term refers to slices of a long tubular muscle that runs length wise inside a larger cut of meat.
It is often delineated by a seam of fat and connective tissue.
Think of it as a large salami shaped muscle running nose-to-tail inside the larger cut of beef.訳)
「目」という用語が肉の切り身、またはその名前を指すために使用される場合、それは眼を意味するわけではありません。
それは必ずしもより柔らかい肉を指すとは限りません。それは純粋にカットのその部分の楕円形を指します。この用語は、大きな肉の切り身の内側を縦方向に走る長い管状の筋肉のスライスを指します。
それはしばしば脂肪と結合組織の継ぎ目によって描写されます。
大きなサラミの形をした筋肉が、大きな牛肉の切り身の中で鼻から尻尾まで走っていると考えてください。
……まあ肩ロースでいいか! ここ日本だし!
上のラム人形の「かたロース」「かた」に対して実物を示すと、
こうです。ラムの人形と左右が逆でややこしいのは申し訳ない。
こういう持ち方をするとイメージしやすいかも知れない。羊を前から見て、縦に両断した感じですね。
この画像の肉は スクエア カット ショルダー と呼ばれます*2。まんま名前の通り、ショルダーのあたりを四角に切りました、という商品です。これはAFFCOの直売所で買いました。2kgで$22(1,500円くらい)でした。骨が占める割合が多いとはいえ安い。
それでまた名前の話に戻るのですが、上の画像で「肩バラ」と書いた部位が、AFFCOのカタログでもハンドブックでも見つかりません。「骨抜いた肩」みたいな売り方をされていて、特別な名前が見つからない。
ただ、牛で言うと肩バラの部位はブリスケット(brisket)と呼びます。"lamb brisket"で検索すると、この部位を指している例もヒットします。あと、ラムバサダーが公開しているレシピブックの中でも、この部位をbrisketと書いてますね(vol 1の16ページ)。
……まあ肩バラでいいか! ここ日本だし!
さてこの骨付き塊肩肉、肩ロースと肩バラとに切り出してみました。
肩ロースはカツに、肩バラは赤ワイン煮に、残った肉やら骨やらはスープにしました。
肩ロースのラムカツ。これがまた、ほどよくラムの香りが強まり、めちゃくちゃ美味しかった。ニュージーランドにいるあいだに食べたもので一番美味しかったかもしれない。
肩バラの赤ワイン煮。これもまた、ほどよく肉の繊維がほどけ、めちゃくちゃ美味しかった。
スープはあんまり印象に残ってない。骨の観察ができて楽しかった。右下の骨、肩甲骨だな。
背骨ごと雑に切られた肩肉なんかもスーパーに売られてて、雑に焼いて食べたりもしてました。これとか(値引きされたあとだけど)500gで$6(500円くらい)。100g100円って豚こまかよって値段ですね。
というわけで、ここまでが「肩」の部位の話でした。
ラムロースとラムチョップ
大分類としてはミドルに相当する部位と言えます。さて、これも書きたいことがたくさんある。
前述の通り、ロースとは背肉を指します。ラムについていうと、このラム人形の「ラムロース」にあたる部位は、肉単体ではなく、ラック(rack)またはチョップ(chop)という形で提供されることが多いです。
ラムのラック。耳慣れない言葉ですが、絵を見たら、「あー、見たことあるー」となると思います。
こんな感じで肉塊から骨がにょいんと出ているやつ。こういうのをラックと呼びます。
や、厳密にいうと、「背肉とあばら骨を含んだ肉の塊」がラックであり、必ずしも骨がにょいんしている必要はありません。ちょっとした雑学を披露しますが、あばら骨の周りの肉だけ削いでにょいんさせることをフレンチ(french) と言います。上の写真は厳密にいえば"フレンチド ラック"です。あえてこんな感じで骨を露出することで、なんか、なんていうんでしょう、"良いもの感"が出ますよね。なんででしょうね。
精肉工場にはフレンチする専用のデカいマシーンがありました。ラックを3,4個並べて蓋を閉めてボタンを押すと、30秒くらいうぃーんと作動音がして、蓋を開けるとフレンチされたラックが並んでいる。人の業のようなものを感じながら作業してました。
そしてラムチョップ。何となく見聞きするし、形も何となくイメージもできますよね。こういうやつです。
チョップの説明は、ウィキペディアのもの がしっくりきた:
A meat chop is a cut of meat cut perpendicular to the spine, and usually containing a rib or riblet part of a vertebra and served as an individual portion. The most common kinds of meat chops are pork and lamb.
訳)
チョップは、背骨に対して垂直にカットされた肉の切り身である。一般的に、脊椎から延びるあばら骨かriblet*3を含み、1枚ずつ提供される。基本的にチョップと言うときは豚かラムのものである。
つまり、ラックをあばら骨ごとに1枚ずつ切り出したものがチョップなのです。ラムチョップの肉はロースで、ラムチョップの骨はあばら骨なのです。
そして、ものすごく、ものすごく残念なことに、ニュージーランドにいるあいだにこの部位を食べることは叶いませんでした。なので写真も借りて来るしかなかった。
ラックは直売所でも売られてなかった。チョップはスーパーにはあったと思うんだけど、結局買わなかった。なんでだろ、高かったからだっけ。
これ書いてて悔しくなってきたしラム肉食べたいから、いまインターネット肉屋でラムのラックを注文しました。近日中に届くので次の記事として書きます。
そして、ラックとして切り取られるよりも腹側のあばら骨近辺の肉が、そうです、上ですでに書いたスペアリブです。ふだん食べている肉が動物のどの部分なのか理解できるとちょっと知的好奇心が満たされますね。
バラ(フラップ: flap)
これも大分類としてはミドルに相当する部位です。だいたいアバラ骨より下の腹側の肉と言っていいでしょう。つまりスペアリブよりも腹側の肉。牛で言うときのカルビはこの部位です。
この部位、牛や豚なら大量に取れるのですが、なんせラムは子羊なのでぺらっぺらです。面積的にはけっこうありますが、体積的にはたいしてありません。精肉工場で見ていても、ちょっとくすんだ白色のタオル? って感じの見た目でした。
残念ながら、この部位は買う機会も食べる機会もありませんでした。
サーロイン(チャンプ: chump)
これも大分類としてはミドルに相当する部位です。背中と腰あたりの肉です。
"サーロイン"という名称は英語でも用いるみたいですが、ハンドブックに従うならば、ラム肉についてはチャンプ(chump)という名称が正式なようです*4。
まあ、ハンドブックも「サーロインって呼んでもいいよ!」と書いてるのでサーロインでいきましょう。
ラムのサーロイン! 二度ほど食べる機会がありました。
これは美味かった。ほどよい柔らかさと、ただの赤身ではないちょっとした脂感。「良い肉」「上品な肉」という感じがしました。
なので、というとアレだが、逆に印象に残ってない。とても美味しかったのは間違いないが、「これならラムじゃなくてもいい」という謎めいた思いを抱いた記憶があります。
二回目のサーロインは完全自己責任でたたきにして食べてみました。ググったら、ラムも、牛と同様に生でもOKらしいと出てきたので。
……やっぱりこう、美味いのは間違いないんだけど、野趣味に欠けるというか、面白みがないというか、ラム感が低めで期待したハードルを越えることはなかった。塩をかけすぎて塩辛かった記憶の方が強い。
なお、ロース(背肉)をまるまる1本取り出したものを バックストラップ(backstrap) と呼ぶらしいです。名前がかっこいいと感じたのでついでに紹介しました。
ヒレ(テンダーロイン; tenderloin)
豚や牛と同じく、いわゆる"ヒレ"です。英語では テンダーロイン と呼ぶみたいです。
これ僕が初めて知ったとき興奮したんですけど、ヒレって骨格の内側の筋肉なんですよ! あばらの内側に付いてる筋肉!あばらの内側って内臓しかないんだと思ってた!
それで、「運動するにもそんなに使う筋肉ではないので、ヒレは柔らかい」という図式が成り立つようです。
テンダーロインも1回だけ食べる機会がありました。
ローストして食べたんですけど、これもサーロインと同じで、「良い肉」「上品な肉」という感じがするゆえに印象に残っていない。日本に帰ったらもう食う機会はないんじゃないかと思いつつも、まあそれでもいいかと思ったのを覚えています。
サーロインもテンダーロインも、ラムをラムたらしめるあの乳臭さというか草っぽい匂いというか、それが控えめなんですよ。しかもどっちも柔らかくて歯ごたえに特徴がない。ラムはラムなんだけど万人受けする感じ。俺はもっとラムにはラムを感じたいんだ。
ランプ(rump)、イチボ(???)、モモ
ショルダー、ミドル、とラム三大部位を見てきました。これが最後のレッグです。レッグもまた、部位の区分けの仕方がいろいろあってややこしい。
まずは、美味そうな写真で攻めます。
さて、レッグの部位について見ていこう。写真が続いたので、もう一度ラム人形を示す。
まず、ランプ(rump)は ハンドブック にも掲載されている、れっきとした部位です。サーロインから続く部分であり、ざっくり、お尻の肉と言える。
一方、「イチボ」が分からない。牛肉について言えばイチボという部位があることは知っています。いま検索したら、やはりお尻のあたりの肉であることも分かりました。
ただ、ラムに関していうと、AFFCOのカタログでも、ハンドブックでも、イチボに相当する部位が見つからない。むしろハンドブックの記載を鵜呑みにするのであれば、お尻のあたりの骨(寛骨; aitch bone)のことをイチボとしている。例。"ラム イチボ"で検索をかけても牛肉のイチボのことばかりヒットする。
これは完全に私見ですが、ラムにおいては、ランプとイチボの境界はかなり不明瞭ではないかと思います。イチボはランプに統合してしまってよかったんじゃないでしょうか、メガハウス社様。
それとは対照的に、「モモ」はもっと細かく分類できる。ハンドブックに依れば、
の4種に分けられるようです。
ラムバサダーの レシピブック vol.1 12ページを参照すると、日本語で言うと、トップサイド → うちもも、ナックル → しんたま とされている*5。
ただし、AFFCOではこの小分けは行われていなかった。じゃあ、レッグまるまる手に入る環境にあるわけだし、俺が小分けしてみるか! と、2020/01/19 に挑んだ記録が残っているので紹介したい。
スネ(シャンク; shank)
紹介する前にもう1つ補足を。
レッグという部位は要するに後ろ脚です。このうち、人間でいうところの尻から膝までの肉が「モモ」であり、膝より下は「スネ(shank)」という扱いになります。購入したラムレッグはモモとスネで構成されていると言っていい*6。
ですので、まずはモモとスネとの分離を試みました。
上の写真の左がスネで、右がモモです。
スネには、ふくらはぎにあたる部分にたっぷりと肉が付いています。じっくり煮込んだシャンクも割と"ごちそう"の類に入る料理です。
そのごちそうを目指してスネをワイン煮にしましたが、勘で味付けしたため、ワイン過多の酸っぱい感じになってしまった。肉としては、牛のすね肉にも似て、繊維質な感じ。ただし、じっくり煮込むことで肉周りのスジがとろけるためか、パサついた感じではなかった。
あー、味付け失敗したのが悔しくなってきた。シャンクもネット肉屋で購入できたので、次回の記事でリベンジする。
それで、モモを4種に切り分ける話に戻るのですが、まっったく分かりませんでした。まっっったく分かりませんでした。もうちょいこう、膜で区分けられて、「おお、確かにこことここは別の筋肉なんだな」と、すいすい解剖できると思っていたのですが、まっっっったく分かりませんでした。
5分で諦めて、結局こいつも丸ごとローストにしました。いつかは、識者による確かな分類が行われた部位ごとの食べ比べをしてみたいものです。
おわりに
推し肉であるラムの部位について、私が知ることのだいたいを書けたと思います。
なにか清々しい気持ちを抱いています。ラムのことめっちゃ書けた……。「推しについて早口で語る」のってこんな感じなんだろうな……。
補遺としていくつかの情報を示して締めます。
1. ラムの枝肉を手作業でカットしていく動画
ラムの枝肉から各部位を切り分けていく動画。グロくはないです。この記事を「面白い」と思った人は、この動画も絶対面白いと思うはず。
AFFCOやハンドブックとは区分けの仕方がちょっと違うので、今回は参考文献としては用いませんでした。
2. 肉が届きました。
本文中で何回か、「インターネット肉屋でラムを注文した」と書きましたが、この記事を公開するまでのあいだに届いてしまいました。
これらを調理したら、その仔細について次の記事を投稿したいと思っています。
→ 次回
*1:あばら(rib)と腰(loin)で分ける方が一般的かなーと思うけど、AFFCOさんがmiddlesという用語を使ってるから従う。
*2:首と前脚をつけたままの状態だと フォアクォータ (fore-quarter)と呼ぶ。「四分割の前側」ってことですかね。直球。
*3:これは調べてみてもよくわからなかった。おそらく、背骨とあばらの間あたりの骨のことだと思う。
*4:背中から腰あたりの背肉は アイ オブ ショートロイン (eye of short loin) という部位もある。このあたりは正直、どこで切り分けるのが正解なのか私もよく分かりません。
*5:シルバーサイドは掲載されているが、対応する日本語は記載されていない(個人的には「そともも」かなと思う)。また、アウトサイドについては言及がない。ほんと、肉の部位って統一的な基準がないんだなあと思う。
*6:ちなみに、前脚のすねはフォアシャンク(foreshank)と呼び、後脚のすねはハインドシャンク(hindshank)と呼びます。フォアシャンクはあんまり食べられる部分がないので、単にシャンクというときはハインドシャンクを指します。